うさみです。
最近、私の知り合いの娘さんの話を聞いて、あらためて思いました。
洋楽を楽しむには、聖書を知っておいたほうがいい
知り合いの娘さんのどういう話だったかというと、ある日、彼女がこう言ったそうです。
「ママ、宗教学の授業のおかげで、 音楽とか映画の内容がよくわかるようになったよ!」
彼女はアメリカ人の父親と日本人の母親を持つ16歳の高校生。バイリンガルで英語のセリフや英語の歌詞の聞き取りには苦労しません。
でも、洋画を観たり洋楽を聴いたりしながら、常々こう思っていました。
言っていることはわかる。けど、言っていることの意味がよくわからない
自分は日本生まれの日本育ちで、英語圏の文化を理解していないのかもしれない、だから、英語のセリフや英語の歌詞の意味がよくわからないのかもと漠然と考えていました。
それが、ミッション系の高校に進学して宗教学の授業を受けるようになってから、彼女の英語の理解度に変化が現れます。
聖書に出てくる言葉やエピソードと照らし合わせると、理解できなかった映画のセリフや歌詞のフレーズの意味がスルスルと理解できるというのです。
以来、彼女はギターを弾き始めたり曲を作ったりして、以前よりも音楽に親しむようになったそう。
「宗教学の授業のおかげで、 音楽や映画の内容がよくわかるようになった 」
という先のセリフは、今の高校を選んでよかったという話の中で、彼女が母親に言った言葉でした。
聖書は身近なもの
英語圏のホテルに泊まってサイドボードの引き出しを開けると、宿泊客のための聖書が1冊入っているなんてことがよくあります。
英語圏の人たちにとって、 聖書はとても身近なもの。
英語という言語自体も「Oh my God」「for God’s sake」「God damn」「Holy s**t」など、ちょっとした一言が「神絡み」です。
聖書の中のエピソードや神を題材にした洋画や、聖書からの引用を歌詞で使っている洋楽の曲がたくさんあるのも頷けますね。
聖書からの引用が歌詞に使われるとき
歌詞に聖書から引用したものが使われているとき、次の2つのパターンがあります。
ひとつは、聖書の中に登場する人の名前や固有名詞をそのまま使っていて、すぐに聖書からの引用だとわかるパターンです。
もうひとつは、その逆で、聖書の中に登場する人の名前や固有名詞が使われていないパターン。
いずれにしても、聖書についての情報がないと、フレーズの意味や、そのフレーズの歌詞における役割(歌詞をどのように修飾しているのか)を本来の英語のニュアンスまでくみ取ることなく曲を聴くことになるでしょう。
gardenは普通の庭じゃないかも
じゃあ、聖書からどんなフレーズや言葉が歌詞に引用されているのでしょうか。
たくさんあるのですが、例えば、
the garden
という単語。
歌詞の中で使われるthe gardenは、単なる「庭」ではなく、聖書の中に出てくる「Garden」を表していることがあります。
聖書の中に出てくる「Garden」は次の2つ。
- エデンの園 – Garden of Eden
- ゲッセマネの園 – Garden of Gethsemane
歌詞に出てくる他の単語やフレーズによって、ただの「庭」か、それとも、2つの「Garden」のうちのどちらを意味しているのかがわかるでしょう。
その他の意味
多くの歌の中で、gardenは誰かの庭として登場していることがあります。
「your garden(あなたの庭)」 「our garden(私たちの庭)」 「my garden(私の庭)」
等。
歌詞に出てくる他の単語やフレーズとの組み合わせで、次のような意味になります。
楽園(天国)=至福や喜び
エアロスミスの「Avant Garden」という曲にも出てきます。
‘Cause love makes your garden grow
Aerosmith “Avant Garden”
直訳すると「愛はあなたの庭を育てるものだから」
意味は「愛はあなたの幸せと喜び(楽園)を育くむものだから」です。
それでは、今日は、例にあげた「garden」を掘り下げていくことにします!
歌詞に「garden」が出てくる曲も載せていきたいと思います。
聖書にまつわるgardenの意味
音楽はアート。聴く人が自分の感性で自由に曲を解釈して楽しむものだと思います。
でも、なんだか意味が腑に落ちないときは
もし、歌詞に「garden」が出てきて、「庭」と捉えたときにしっくりこなければ、これから説明する「garden」の意味を参考にしてみてくださいね。
聖書の「Garden」
歌詞の中に出てくる「garden」を単に「庭」と捉えると、なんとなくしっくりこなかったり辻褄が合わないと感じることがあります。
そのときは、次の3つのいずれかを当てはめてみます。
- エデンの園=楽園(天国)
- ゲッセマネの園
- 至福や喜び
では、①から③まで、実際に使われている曲を聴いて考察したいと思います。
まずは、聖書に出てくるエデンの園のエピソードを紹介します。
「ゲッセマネの園」については、こちら。
エデンの園
旧約聖書の創世記に出てくる「エデンの園 – Garden of Eden」
エデンの園はキリスト教における楽園であり、天国とされています。
多くの場合、美しい水を湛えた川が流れ、枯れることない草木や花、果実に囲まれて、生き物たちが自由にのびのびと暮らしているとされます。
エデンの園のあらすじ
アダムとイヴ(エヴァ)が暮らすエデンの園のエピソードは世界的によく知られている話。
一般的に知られているエデンの園のエピソードをまとめました。
いろいろな曲の歌詞の中で「garden=エデンの園」と一緒に使われることの多い言葉を青くマークしています。
アダムとイヴ(エヴァ)の誕生
神は天地と植物、動物を創造したあと、土で自分をかたどって息を吹きかけ最初の人間アダム(男)を作った
神はアダムを、永遠に朽ちることのない楽園「エデンの園」に置く
その後、神はアダムと共に助け合う人間イヴを作る。イヴはアダムの肋骨から作られた女である
サタンの誘惑
美しく豊かな楽園で、何にも心を煩わされることなく自由に暮らすアダムとイヴ
神は二人に「エデンの園にある木の実は好きなものを自由に食べても良いが、知恵(善悪の知識)の木の実(fruit)(禁断の果実)だけは絶対に食べてはならない。食べれば命を落とす」と言った
アダムとイヴは神の言いつけを忠実(faith)に守る
しかし、あるとき、サタン(悪魔)の化身である蛇にそそのかされて、イヴは知恵の木の実を食べてしまう
さらに、イヴは知恵の木の実をアダムに分け与えた
アダムとイヴが神の教えに背いて知恵の実を食べたことは、人間が犯した最初の罪(原罪=original sin)とされている
イヴが食べた木の実(禁断の実)は「りんご」「ブドウ」「ナシ」他、国や地域によって見解や認識に違いがある
裏切り
知恵の木の実を食べたアダムとイヴは、急に羞恥心が芽生え自分たちが裸であることを恥じて、イチジクの葉で身体を隠した
アダムとイヴの異変に気づいた神が、知恵の木の実を食べたのかと二人に尋ねる
知恵の木の実を食べたことで「悪」を知ってしまった二人からは、もはやネガティブなリアクションしか返ってこない
イヴは蛇に食べろと言われたから食べたのだと言い、蛇に責任転嫁する(蛇はイヴに木の実を食べろと強制はしなかった)
アダムはイヴだけが食べたとウソをつき、神だけでなくイヴのことも裏切った
神はすべてお見通し。神の命令に背き、神の逆鱗に触れたアダムとイヴは、エデンの園からエデンの東へと追放される
エデンの園に人間が入ってこれないように、神はエデンの園の東に神の御使い(天使)ときらめきながら回転する炎の剣を配備する
歌詞を聴く
gardenが「エデンの園=楽園・天国」の意味で使われている曲と歌詞を紹介します。
英語でアーティスト名と曲名を聞きたいときは、アーティスト名の下の音声バーを再生してくださいね!
テイラー・スウィフト
“Betty” – Taylor Swift
ガールフレンドのBettyを裏切って、他の女の子と浮気をしてしまった男の子の歌。
後悔の気持ちとBettyへの未練を語っている。
But if I just showed up at your party Would you have me? Would you want me? Would you tell me to go fuck myself? Or lead me to the garden? In the garden would you trust me? もし、僕が君のパーティーに現れたとしたら 君は僕を入れてくれるかな? 僕を求めてくれるかな? 消え失せろって僕に言うかな? それとも、僕を楽園に導いてくれるかな? 楽園で、君は僕を信じてくれるかな?
考察
“Or lead me to the garden?”
というフレーズまでを聴いていると、the gardenを「パーティー会場の庭」だと想像するかもしれません。
ですが、そのあとの
In the garden, would you trust me?
で、パーティー会場の庭のイメージだった「the garden」が、一気に、楽園=エデンの園のイメージに変わります。
歌の主人公はベティともう一度ふたりで楽園に入ることを望んでいます。そして、彼女を裏切った自分の罪と、永遠に許されることのない<原罪>とを重ねているようです。
解釈例
Would you Lead me to the garden?
In the garden, would you trust me?
「取り返しのつかないことをしたことはわかっているけど、許してはもらえないのだろうか」
後悔の念に苦しむ気持ちが伝わってきます。
歌詞のストーリーと「Would you trust me?」というフレーズがthe gardenと使われていることによって、エデンの園と原罪が連想される
リル・ナズ・エックス
“Montero” – Lil Nas X
好みの男性を誘惑している歌。「あなたは同性同士でもできるでしょ?」と言いながらグイグイ行っています。
I'm not fazed Only here to sin If Eve ain't in your garden you know that you can 僕は動じないよ 罪を犯すためだけにここにいる もし、君の楽園にイヴがいないなら 君はヤれるよね
考察
「イヴ」「罪を犯す」という言葉が出てきているので、your gardenが「エデンの園」だと察しがつきます。ミュージックビデオでも、エデンの園の設定です。
解釈例
If Eve ain’t in your garden, you know that you can
「君、カノジョがいないなら、男とヤってもいいよね」
ミュージックビデオでは、ちょうどこのフレーズのところで蛇がリル・ナズを誘惑していますね。
エデンの園に登場するイヴの名前や罪を犯すというフレーズが出てきている
オアシス
“Live Forever” – Oasis
この曲は、ニルヴァーナのカート・コバーン(Kurt Cobain)の死に憤りを感じたノエル(オアシスのボーカル)が、その思いを込めて書いたと言われています。
才能に溢れたすばらしいミュージシャンだったカートが、生前、自分自身を卑下するような曲を書いていたことに対して、ノエルは「俺は自分のことを愛してやまないし、俺は永遠に生きてやる」という気持ちを持ったそう。
ミュージックビデオには、追悼後に墓穴を掘るようなイメージのシーンが出てきます。
Maybe I don't really wanna know How your garden grows 'cause I just wanna fly Lately, did you ever feel pain 多分、俺はお前の天国の様子を 知りたいわけじゃない ただ空を飛びたいだけなんだ 最近、辛いと感じることがあったのか?
考察
人はときどき、鳥のように空を飛べたらいいなと思うことがあります。
そんな、何でもない願望を引き合いにだして、「君が空(天国)へ飛んでいきたいと思ったのは、辛かったからなのか?」と故人に問いかけているようです。
やるせない気持ちが伝わってきます。
解釈例
Maybe I don’t really wanna know how your garden grows
「俺は別に君のあとを追って死にたいわけじゃないと思う」
このあと、「永遠に生きるぞ」という生への強い意志が感じられる歌詞が続いていきます。
故人に向けられた曲であることと、空を飛ぶ”Fly”が使われていることから、gardenが空の彼方にある天国(エデンの園)だと解釈できる
エデンの園の “garden” まとめ
歌詞の中の「garden」を単なる「庭」と解釈してして、何か違う、何か物足りないと感じたら、次の①か②の可能性あり
- エデンの園=楽園(キリスト教における天国)
- 至福や喜び
①②のどれに当たるかは、歌詞の他のフレーズや単語で判断します。
それでもしっくりこなければ、聖書に出てくるもう一つのgarden、
ゲッセマネの園
かもしれません!
このつづきは、こちら。